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その顔色を見て、真壁はいかん、と思った。首筋まで真っ赤な児島貴(こじま たかし)はもうすぐ人語を理解しない状態になり、そして常識を理解しない行動をするようになる。
「いろいろありがとうございました」テーブルに身を乗り出して児島に怒鳴った。隣りの進藤典範(しんどう のりひろ)となんだか笑いあっていた黄色い髪の男はまだ理解力があるらしく、真っ赤な顔で微笑んだ。
「こちらこそ世話になったよ」
「児島さんも東京に?」
彼も少ししたらこの街を離れると聞いていた。お金を稼ぐ必要もなくなり、これまで勤めていた会社に復帰することが許されたのだそうだ。
「うん。ちょっと早めるかもしれない」
「そうなんですか?」
児島の手にあるのはスコッチだろうか? うん、とうなずいてからそれを一気にあける。危ないところだった、と真壁は思った。
「今回の設置作業で死人が多く出たし、大規模な再編成が起きると思う。離れるにはいいタイミングだろう」
「なるほど。じゃあお仕事始まるまでは旅行でも?」
「そうはいかないだろうな。腹が見苦しくなる前に結婚式を挙げたいというのが一人いるし」
「え?」 進藤と二人顔を見合わせた。
「八月に生まれる」
「ええ?」