木島明子

 11:47

目の前でいらいらと携帯電話を耳につけているのは、この街の探索者でも重要人物の一人、真城雪(ましろ ゆき)だった。彼女については特別なファイルが編集してある。いわく、最強の戦士の一人。いわく、この街での最高権力者で通称『女帝』。いわく、唯一ロ…

 10:12

初日に挨拶した若い娘が謝りながら飛び込んできた。そして自分の姿を見て立ちすくんだ。確か三峰えりか(みつみね えりか)という名前だったはずだ。社内名簿のファイルによれば二五才、神戸の大学院を卒業してすぐ技術者として入社し、昨年の探索開始からこ…

 13:07

午前中で迷宮探索事業団の事務方ならびに計量部門の技術者たちとの挨拶を済ませ、後藤誠司(ごとう せいじ)は事務所の自分の椅子に深くもたれた。ぎ、と嫌な音がする。その音に眉をしかめてから室内を見回した。せいぜい一〇坪程度のその部屋が、世界にたっ…