みんなの視線が痛い気がする。ここから出て行きたい。あとは自分のアナウンスだけ、という状態で皆が自分を待っている。わかっている。自分はこの紙を読み上げなければならない。自分に責任はない。でも、くそう、おのれ、あの男。
『次のカードに先立ちまして、内田信二からのメッセージをお伝えします』
場内が続きを待って静まった。私は悪くないよ。本当だよ。泣きたい。くそ、あの野郎。ちくしょう。地下で見かけたら焼き殺してやるぞ。絶対だバカ。
『ええと――ごめん! 彼女との約束忘れててすっげー怒ってる! 棄権するんであとヨロシク! ――だそうです』
轟音。怒声。スイッチを切っていないマイクがそれを拾い、慌ててマイクの頭を抑えた。ああ、助けて、誰か。マイクを抱え込んで放送席に突っ伏した。
それがしん、と静まった。恐る恐る顔を挙げると、会場の中央に自衛隊の迷彩服を着た男が立っている。
星野幸樹(ほしの こうき)は職業柄かよくとおる声で話し始めた。
「内田がみんなに迷惑をかけて本当にすまないと思っている。内田の不始末は俺の不始末、俺が責任をとって佐藤の相手をしたい。見ててもつまんないし。それで許してもらえるだろうか」
大歓声は場内の気分がまたまた一変したことを示していた。手を挙げて応える星野に後光が差している気がする。マイクを握って言葉を発した。
『カードを変更します! 星野幸樹対佐藤良輔!』
場内をゆるがすホシノコールに和したい気持ちだった。星野さん、ありがとう! ガッツポーズのまま固まり呆然としている男の姿が視界に入ったがもちろん意識には残らなかった。