佐藤良輔

 06:53

仲間の死には慣れている。地下は自分たちにとってあまりに過酷であり世の中には運不運というものが歴然としてあるからだ。しかし安置室に並んだ三つの屍を前にして津差龍一郎(つさ りゅういちろう)はやるせない思いを抑えられなかった。理由はいろいろあっ…

 06:42

秋谷佳宗(あきたに よしむね)の戦いぶりをさして「踊りのよう」と表現する連中は、当然彼のもう一つの顔を知っているからそういうのだろう。しかしそれを差し引いたとしても背筋が常に伸びて安定した下半身の動きは優雅な印象を見るものに与えた。しかしそ…

今日はパトロールの日なので早めに書く。今日から津差さん部隊の佐藤良輔(さとう りょうすけ)さんと野沢康平(のざわ こうへい)さんも参加することになった。これで、第二期でパトロールに加わっている人間は八名になる。笠置町翠(かさぎまち みどり)、…

訓練は西野さんと午後からにした。当然午前中は起きられなかったのだ。 西野さんとは初対戦になる。その背筋のなせる技なのだろうか、たいへん太刀行きが速い人だった。ただ、まだ実戦は三度目ということで頭で作戦を組み立てられていないのがわかる。それで…

探索者に対する批判でもっともふさわしくないものは吝嗇だったが金銭に無頓着であるわけでは決してない。明日をも知れぬ身であるから金には恬淡としており、高額の出費を担うことも高額の収入を求めることもごく自然に身についた態度だった。屠った生き物の…

小さなガッツポーズを見て意外を感じた。佐藤良輔(さとう りょうすけ)の目の前で同じ賞品である遊園地のチケットを受け取る娘は、その仲間の日記を読む限り恋人はいないと思っていたからだ。それでもペアチケットを喜ぶからには誰か一緒に行く相手がいるの…

室内の様子に佐藤良輔(さとう りょうすけ)はぎょっとした。ここは現在剣術トーナメントが行われている屋根つきの訓練場に隣接する事務施設で、二階には基本四職業の各教官の教官室が並んでいる。それぞれの部屋は自分がこの街で借りている2LDKの二部屋…

渡されたペットボトルに礼を返し、国村光(くにむら ひかる)は試合場のはずれに視線をやった。行き交う人のために見たいものを捕らえることはできなかったが、人の流れがそこにあるべきものにまったく注目をしていないところからそこでは何も行われていない…

両腕は軽く曲げられ顔の前に挙げられる。それを振り下ろすと同時に膝がたわみ、腰の位置が全く前後することなく垂直に下に落ちた。落ちるといってもその速度はあくまでゆっくりと、その人間が制御している動きだと見ていてわかる。落ちる腰は速度の増減なく…

しんと静まり返る中を橋本辰(はしもと たつ)は大の字になっている若者のもとに歩いていった。序盤の試合は知らないが彼が審判をするようになってから初めて明らかにそれとわかる怪我だったからその沈黙も仕方がないのかもしれない。しかしそれを圧して空気…

初め、という声と同時に目の前の若い戦士が地を蹴った。そうだ、と闘いの場でありながらも国村は教師の思いでその動作を見守っていた。そう、俺は身体がまだ本調子じゃない。お前の渾身の動きにカウンターを当てられるような状態じゃない。そう判断したなら…

苦戦はしないだろう。国村光(くにむら ひかる)は当初そう思っていた。 猫を相手に心を落ち着かせていた先ほど、第二期最強の戦士たちが三人のこのこと雁首そろえてやってきた。彼らに次の対戦相手である佐藤良輔(さとう りょうすけ)について訊いても対面…

剣術トーナメントで訓練場の建物を全て使われてしまう今日は、教官たちにとっては降ってわいたような休暇の日となるはずだった。しかし自分には石の選別という仕事が山積みであり、罠解除師の教官である洗馬太郎(せば たろう)と治療術師の教官である久米錬…

自分の耳には全て同じ音に聞こえ、自分の目には全て同じ動きに見える。それでもその男が一度一度うなずいたり舌打ちをしたりしていることから、そこには戦士たちにしかわからない何が違いがあるのだろう。訓練場側壁に設けられ、内部と外部をつなぐ通用口の…

みんなの視線が痛い気がする。ここから出て行きたい。あとは自分のアナウンスだけ、という状態で皆が自分を待っている。わかっている。自分はこの紙を読み上げなければならない。自分に責任はない。でも、くそう、おのれ、あの男。 『次のカードに先立ちまし…

強運の戦士という呼称に誰よりも違和感を感じているのは本人である佐藤良輔(さとう りょうすけ)だった。違和感である。反感ではない。この街にいて運も実力のうちという言葉が事実であることを痛感していない人間はいないし、おそらくほとんどの人間は運と…

浮き立った気分で会場に戻るとちょうど部隊の戦士である佐藤良輔(さとう りょうすけ)が直立で精神を集中しているところだった。驚かせてやろう、と右拳を握りしめてその背中に向けて繰り出すと、まるで漫画のようなタイミングで佐藤は屈伸をした。くすくす…