織田彩

地上で待機していた高田&星野隊すら臨時に出る必要がなく、第二期の一〇部隊による第一層の移動護衛だけで工事が全て終了した。最終日、一番大変だと思われていた第四層だったけれどもたくさんの助っ人のお陰で無事に済んでよかったと思う。俺も午後から詰…

今日から迷宮街内部限定で日記の一般公開だ。とりあえずは部隊の仲間たちにパスを教えて見てもらっている。みんなにやにやしたり奇声をあげながら読んでいた。まあ、読み返してみると密度濃く行動した相手は翠以外にはいないし、彼らには懐かしい日々を再確…

 11:35

今日まではいらっしゃいませの代わりに「あけましておめでとうございます」を挨拶にするつもりだった。通りすがりの客がほとんどいない迷宮街支店ではそのような親しみが無視されることはほとんどない。たった今の言葉も大きな笑顔に受け止められた。もう一…

 10:42

女性たちが一様に視線を泳がせしりごみしている。その顔にはありありとおびえが浮かんでいた。 であれば、とその輪の外側の男たちを見つめたが皆が視線をそらした。津差龍一郎(つさ りゅういちろう)はため息をついた。いくら慎重な俺でもこんな問題は予想…

 11:05

こんなものかな! と両手を一つ打ち、小林桂(こばやし かつら)は晴れ晴れとした思いで段ボールの山を眺めた。バッグに詰める生活用品、布団を除いたほとんどがそこには収められていた。この街のアパートは家具類がすべて据付になっていたから、引っ越すと…

 09:30

カーテンを開けようと立ち上がった足腰がふらつく。今日は本格的に荷造りをする日ということで、昨夜の酒はほどほどにするつもりだった。北酒場で非探索者の友人たちが開いてくれた送別会においてもそれはしっかりと守られた。その後「すこし話しましょうよ…

 19:05

北酒場内部を大別すると六つに分けられる。ひとつは六〜十人座れる丸テーブルが並ぶ集団用の飲食スペース、二つ目は八人がけのテーブルが並ぶ個人用の食事スペース、三つ目はバーカウンター、四つ目はパーティーなどを行うためのホール、五つ目はオープンテ…

 20:13

探索者と仲良くするといいことがないと、織田彩(おりた あや)は過去の体験で知っている。人間はいつか死ぬもので、死んだらそれまでの付き合いの分だけ悲しくなってしまうもので、そして探索者は恐ろしく死亡率の高い職業だったからそれも当然のことだった…

 15:20

ここ三日の晴天で蓄えられた地熱が陽炎となってたちのぼるかのようだった。北酒場に併設されているオープンカフェは、そのお陰で一一月の下旬とは思えない快適さを与えてくれていた。目の前にはホットココアと苺のミルフィーユ。織田彩(おりた あや)は幸せ…

小寺の遺体回収が無事に終わってほっとしている。階段を下りて30メートル、しかも大事をとって他部隊の直後に降りたのがよかったのか、遺体を回収し、戻るまで化け物に出会うことはなかった。遺体は通路の脇に寄せられて、荷物や死体を隠すためのビニールシ…

迷宮街の夜は早い。朝五時まで営業の居酒屋などやっていないから、夜遅くに目がさめてしまった俺は唯一のコンビニであるミニストップ迷宮街支店まで出かけていった。全国チェーンのコンビニにはいろいろ種類があるし、販売実績ではもっと上位のものもあった…

言葉をかき消したものは、常日頃喧騒に満ちたこの場所であっても珍しいものだった。拍手と喝采である。その意外さに思わず中村嘉穂(なかむら かほ)は振り向いた。見ると、一角でよく見かける女探索者がなにやら声を張り上げている。名前だろうか? 誰かを…