大海を知った一日。今日は教官の橋本さんに稽古をつけてもらった。戦士としての真壁啓一にはこれといった特徴はないけれど、バランスよく上達していると思う。最近では第一期の戦士の中でも第二層より上で停滞している人たちとはいい勝負ができるようになってきていた。以前はとてもかなわない、と思った高坂新太郎(こうさか しんたろう)さんにも最近は分がいい。慢心は禁物。でも俺は、第二期の剣士として五指に入る位置にいると確信している。
まあ、慢心なんてできるわけがない。橋本さんは以前はぼんやり座っているだけだったのだけど、この頃はよく稽古をつけてくれる。第一期の先輩たちですら赤子同然のその人と、長い順番待ちでようやく立会いになったと思ったら相手にもならなかった。「じゃあ、首を右から打つから」そう言われて身構えても、気が付いたら切っ先が首の隣りにいる。真城さんのように瞬きのタイミングをつかんでいるのか? と思って意図的にずらしても同じだった。スピードとか筋力とかももちろん違うけど、それよりは根本的なコツを俺はつかんでいない気がする。言葉を知らないのに会話しようとしているような。たっぷり一〇分間あしらわれて、わけがわからないと言ったら「一ヶ月でわかるようになってたまるか」と笑われた。先は遠いな。
知らなかったけど、買取している商社の担当者が変更になったらしい。これまでは榊原さんといういいおじいちゃんみたいな空気の人で、暇さえあれば迷宮出口の詰め所でお茶をすすっていた人だ。みんなお父さんと呼んでいた。新しい人はどうやら買い取り価格を下げようと思っているらしい。あんまり無茶な下がり方をするのは困るけど、俺としてはふーんそうですかという印象だ。暮らせるだけの稼ぎはあるから。
水上孝樹(みなかみ たかき)さんという方とほんのちょっとだけお話をした。笠置町姉妹のいとこというその人は穏やかで快活で、明らかに強かった。ちょっと挨拶した握力は津差さんよりも強いんじゃないだろうかという迫力。笠置町家族のあたりはきっと遺伝子レベルで違うんだろうな。
まあ、違うといっても肉体的なものだけだろうけど。