俺には腕力も体力もないけど、反射神経とスピードはあるつもりだった。だから、そう、きっと五キロはあるツナギのせいなのだろう。鈴木秀美(すずき ひでみ)さんに駆けっこでまったく追いつけなかったのは。
今日から二日まで詰め所で示威部隊に加わる。今日のメンツは俺、星野さん、国村光(くにむら ひかる)さん、藤野尚美(ふじの なおみ)さん、縁川さつき(よりかわ さつき)さん、落合香奈(おちあい かな)さん。国村さんは前に身体の使い方を教わった週末探索者だ。藤野さんはその恋人で同じく週末探索者。国村さんは名古屋の会社、藤野さんは横浜の会社ということで、この街で一緒に正月を過ごそうと思ってやってきたという。だったらのんびりしていればいいと思うのだけど、「みんなと話すのは楽しいから!」 藤野さんに言わせるとそうらしい。
縁川さんは高田さんの部隊の治療術師だ。この方はご実家が近くということで、「なんかお餅食べ過ぎたから」と言いながら急遽今朝参加した。当然ツナギも用意できておらず訓練場のものを着ていた。早口で流れるような関西弁で星野御大にもまったく遠慮がない。そして落合さんは昨日に引き続き参加してくださった。くださった、というのはこの方はこの街にコネがたくさんあって、北酒場からなんと中華スープを取り寄せてくれた方だから当然の敬意をこめたのだ。
スープは俺が取りに行ったのだけど、同行したのは鈴木さんだった。彼女を残して部隊が壊滅してから一二日かな。ずっと見かけずに実家に帰ったのだと思っていた(お兄さんが迎えにきていたみたいだし)けれど、どうやら復活したみたい。誰かいいひと紹介してくださいよーと言われたので真剣に考えようと思う。
さて、示威遠征は午前一回午後二回の計三回だった。けれど遭遇は午後に三回あっただけ。平和なもんだ。デモンストレーションも兼ねて地下で国村さんに稽古をつけてもらった。国村さんいわく、俺は成長が早いそうだ。この人はすごい人なので単純に嬉しい。
生き残るヒントを探したくて、最精鋭の四部隊に出稽古をさせてもらえないかと思っている。俺からじゃ取り合ってもらえないと思ったから、青柳さんに打診をしてもらっているはずなんだけど・・・。話がないから、断られたのかな。
あー、でも、鈴木さんが元気が出てよかった。これから鈴木さん落合さん津差さん葛西さんとご飯を食べる予定です。みんな嬉しいから鈴木さんにどんどん飲ませようとするんだろうな。でも彼女は未成年なんだから俺がしっかり守らないと。