今日みたいなことがたびたびあればいいのにと心から思う。今日一日の見稽古で俺は五倍くらい強くなった気がするからだ。今日のビデオ、徳永さんが会場に五台設置したカメラの映像は明日の夜には迷宮街内部ならネットで観られるらしい。そして来週にはビデオで販売するという。これは絶対に買わないと。
明後日からの作業開始にほとんどの有力部隊が駆り出されるために、ほとんどの有力戦士たちが暇だった今日、真城さんの発案で剣術トーナメントを行うことになった。もちろん俺も面白そうだから参加する。相手に恵まれればベスト一六くらいはいけると思ったからだ。結果は一回戦敗退だったけれどね。でも相手が精鋭四部隊の戦士の一人である小笠原幹夫(おがさわら みきお)さんだったから仕方ないとは思う。
オーソドックスな剣術だと思って踏み込んだら柔道だかなんだかの心得があるらしくひっくり返されて負けた。何度思い返してみてもまったく対処法がわからない、まさに完敗。運が悪かったと思う。
大会は結局黒田聡(くろだ さとし)さんの優勝で幕を閉じた。下馬評でも黒田さん、国村さん、野村悠樹(のむら ゆうき)さん、真城さん、翠、神足燎三(こうたり りょうぞう)さんのいずれかだろうと言われていたなかで筆頭に挙がっていただけに順当といえばいえたのだろう。でも、全ての試合、特にベスト八を決めるところからはもう誰が勝ってもおかしくないと思えた。特に飛び入り参加した鈴木秀美(すずき ひでみ)さんと黒田さんの試合、真城さんと湯浅さんの部隊の秋谷佳宗(あきたに よしむね)さんという方の試合、そしてわざわざ会社をサボってかけつけた国村さんと神足さんの試合は運動するもの全てが参考にするべき人間の動きの芸術というか、早くビデオが欲しいと思う。
そんなこんなで今日はずっと皆で過ごした。夜からはうちの部隊の男連中だけで酒を飲んだ。児島さんも三月アタマから前の会社に復職することを正式に決めたそうだ。おめでとうございます。あとの二人は当面この街にいるらしい。
今月末で街を出てもたびたびは遊びにこいと二人は言ってくれたけど、俺と児島さんは顔を見合わせてあいまいに笑うだけだ。これはもうこの街の人間全てが読んでいるからちょっと書きにくいのだけど、俺は、いちどここを離れたらもうしばらくは京都の駅にすら降りられないと思う。降りたらこの街に来たくなるから。来てみんなの様子を知りたくなると思うから。そしてこの街がどういうところかは知っているつもりだ。
自分が死地にいればこそ他人の死亡確率を受け入れられるのだと、辞めることを決意して辞めた後の生活を現実のものとして考えるようになって初めてわかった。今の俺には、皆が明日死ぬかもしれない境遇がつらい。そばにいたら引き剥がしたいと思い、しかしできない弱い関係性を憎んでしまうと思う。それは残る人たちの邪魔にしかならない。みんな誤解のないように願うけど、俺はきっとみんなともう連絡をとらないと思う。でもそれは思いが薄まるからじゃなくて、普段は封印しないといけないほど強いものになってしまうからです。
芥川だっけかが書いていたと思う。自分が成人になると同時に親が死ぬ社会がいいとか。俺も同じように身勝手なことを考えている。自分が探索者を辞めると同時に、せめて俺の好きな人たちくらいは辞めてくれたらいいのにと。
えーと、酔っている時に文章を書くものじゃないということがわかっていただけましたか。なら結構です。