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箪笥の上には二つの写真立て。両方ともに自分は映っているが、ともにいる人間が違っていた。一つには、一人の男性と男の子そして自分。一つには、一人の男性と自分。
片方はかなり前に伏せられ今ではうっすらとほこりが積もっている(それはちょっと掃除をサボりすぎたと自分でも思うけど)。一つは毎朝スカーフを選ぶ自分に笑顔を向けていた。
そっとその写真を指でなぞった。四角の中で笑う、髪を短く刈った男性は今はもうこの地上にいないらしい。そう、彼の仲間だという男の子から連絡があった。
写真立てを伏せ、畳の上にぺたんと座った。もう涙は出そうにない。あとはするべきことをするだけだ。カレンダーの日付を見た。月を越して来月まで延びるその矢印は探索者志願のテスト期間を示している。探索者でもあった恋人から聞いていたテストの方法、それに応じた体力を備えなければならない締め切りの日付を示してもいた。
結局、と先ほど注ぎ、すっかり冷めてしまったお茶の表面を眺めた。薄い緑色の湯面には思いつめた女の顔が映っている。結局、こころを満たすためには自分でその場に赴かなければならないのだろう。打つべき仇は少し重くなってしまったけれど。夫と、息子と、夫になってくれたかもしれない男性と――左手をそっと下腹部に当てる。明日、朝一番で産婦人科に行こう。探索者になっては子どもは育てられないのだから。
夫と、息子と、夫になってくれたかもしれない男性と、まだ性別もわからない、生まれて来るはずだった子の仇。彼女が失ったものを地下の化け物たちに返してもらわなければならない。お茶を口に含んだ。味など感じずにぬるい液体を飲み下した。