午前中は訓練場で訓練をして過ごした。最近は地上では打ち合いの時間を減らすようにしている。平らな床の上で動くことに慣れてもあまり意味がないと思うようになったことと、とにかく剣筋を精確に、太刀行きを速くする練習が重要だと思うようになったからだ。ということで筋トレと柔軟とランニング、そして素振りだけで終わった。いろいろな訓練設備に恵まれている迷宮街だったけれど、いわゆるトレーニングジムのマシン類は置いていない。あるのはバーベルやダンベル、バランスボールといった使い方が決まっていない道具類のみだった。昔橋本さんに理由を訊いたら「俺はそんなもの使ったことないよ」と言われて沈黙した。この街でこれ以上に説得力のある言葉はない。
訓練を切り上げてモルグに戻る途中、テレビ局の人たちを見かけた。俺が呼ばれていたのは土曜日だけだったけど彼らは土日をこの街で過ごしているのだ。道具屋の前で神田さんと小林さんがクリスマスツリーの電飾を飾り付けしているところを撮影していた。
午後からは笠置町姉妹、津差さんと神戸まで出た。目的地は王子の動物園。ここにはパンダがいるのだという。パンダを見たことのない笠置町姉妹がついでにドライブを所望したのだった。俺が運転するという申し出は約一名の強力な反対で実現せず、助手席でナビをおおせつかった。
姉妹は喜んでいたが、やれパンダだやれキツネザルだやれカンガルーだと走り去っていく後に残される男二人は休日の動物園でどう見えているのだろうか。どうせなら平日にすればいいのにと言ったら「空いている動物園って淋しいじゃない」だそうだ。
その後、京都まで戻る途中で回るお寿司を食べて帰った。道具屋では立派なイルミネーションが完成していた。この街もいよいよ(世間から半月遅れの)クリスマスだな。