昨日は夕方からずっと雨でどうなることかと思ったけれど、今日はいい天気! こんなことなら黒田さんたちとご来迎を拝みに行けばよかった。それでも木賃宿の屋上から眺める朝もやの京都市街は非常にきれいだった。洗濯物も乾きそうだし。
本日もまた示威部隊に参加。今日の面子は鈴木秀美(すずき ひでみ)さん、国村光(くにむら ひかる)さん、俺、落合香奈(おちあい かな)さん、藤野尚美(ふじの なおみ)さん、西谷陽子(にしたに ようこ)さん、久米篤(くめ あつし)さん。久米さん西谷さんとは初めてお話しした。久米さんは背が低く(翠くらいかな?)、一見して華奢な感じだ。でも第一期の準精鋭部隊にいるんだから大変なものだと思う。この人は治療術師である。西谷さんは精鋭四部隊の一つ湯浅さんの部隊の魔法使いで、昨日まで鈴鹿だったのよーとお饅頭を持ってきたように車が大好きで有名な人だ。京都に普段履きの自動車、鈴鹿にレース用の自動車を持っているのだとか。探索から上がるとすぐに鈴鹿に行ってしまい、探索前夜に帰ってくるこの人は、迷宮街で出会うと幸せになるレアキャラだと言われていた。はぐれメタルの類だな。車趣味という骨っぽさはその外見からはまったく感じられなくて、髪は染めずにさらさら頬はぽっちゃりして、確かによく焼けているけど一重まぶたがやさしげなほわっとしたタイプの人だ。のんびりした滋賀弁で「ほんにねー」といつも穏やかに笑っている。
今日は第一回の示威遠征を8時〜10時、第二回を12時〜14時にして終わりにした。15時からはお餅の差し入れがあるから、返り血と泥に汚れた姿を見せてはいけないという配慮だった。
前衛が俺と国村さんしかいなかったので鈴木さんが前衛に繰り上がった。この人の戦闘能力は女帝のお墨付きで、でも実際に目にした人は真城さんしかいないために都市伝説になっていたけれど、目の当たりにしたらそれ以上にすごかった。やっぱり階段下で稽古をつけてもらったのだけど、こっちの呼吸を縫ってのんびりと入り込んでくるその動きにまったく対応できない。橋本さんや真城さんの動きは、映画のフィルムのコマとコマの間で動かれているような気がする純粋なタイミングとスピードの問題だ。でも翠や鈴木さん、そして翠パパは頭は働いているのに身体の反応速度が鈍っているときを読み取って距離をつめられるような。間合いの詰め方にもいろいろあるものだ。
ここに来て思うのは、ドラゴンボールは荒唐無稽じゃなかったんだなということ。あのマンガ、次から次へと出てくる強敵に後半はぐったりしたけどあながち間違いじゃないのだ。だってこう見えても俺は、学生時代に酔って喧嘩して負けたことがない(ヤムチャ)。それなのに津差さんには到底かなわず(天津飯)、その津差さんは翠に相変わらず手玉に取られる(ピッコロ)。その翠は越谷さんの前ではねじ伏せられる(べジータ)かと思ったら、越谷さんは橋本さんにいまだ一太刀も当てていないという(フリーザ)。そしてそれらすべてを圧倒する翠パパ(セル・・・でよかったか?)だ。強くなることを目標においてしまったら絶望的なこのヒエラルキーは、けれどもジャンプコミックスではなくて現実の話だ。本当に世界は広いと思う。きっと世の中には翠パパが手も足も出ないような生き物がいるんだろうな。鯨とか。
シャワーを浴びて、分厚い迷宮の扉に施錠し、自衛隊の方にあとをお願いした頃詰め所にお餅がやってきた。何故だかそこに津差さんがいた。黒田さんと来迎を見にいったのではなかったのかな? お餅つきは朝からだったというのにご苦労様なことです。からみ餅きなこ餅あんこ餅、みんなおいしかった。それにあわせたように落合さんがお汁粉の汁を北酒場からもらってきた。宅配寿司のおせちも頼んであったし立派な正月気分だった。
国村さん、藤野さんと話す。迷宮街にいて死の危険がありながら平日は日常生活にいる日々とはどういうものだろう? とずっと興味をもっていたからだ。二人とも共通するのは「会社には(友達には)言えないよ」ということだった。国村さんいわく「月曜日に来ないかもしれないとわかったら仕事回してもらえないから」 まっとうな人間関係と探索活動を両立させるのはとても大変だよという藤野さんの言葉が印象的だった。「とても大変だけど、悪いのは選んだ私たち。だから知らせなかったりなるべく深い関係にならなかったり配慮は必要だと思う」
そうか、そういうものかもしれない。とりあえず実家には知らせるべきだろうか? と意見を訊いたら「親をだますな」とその場の四人から怒られた。
藤野さんがこの街に来た動機は、当時交際していた男性を追ってだそうだ。その方は「いまはもういない」そうだけど、まあ由加里が来ても二〇キロの土嚢を持つことすらできないけど、うん。心配のあまり当時の仕事を辞めて追ってこようと決心させるほど、明日恋人が死ぬかもしれないという毎日は厳しいのだとわかった。
同じく恋人を追ってこの街に来たというケースはもう一人いるという。女帝だ。誰を追ったかって? 正解は三月九日に。