笠置町隆盛

 12:13

水滴の音はほんのかすかなものだったけれど、それは広く大きく響いた。かき消すものがなければどんな小さなものでも存在を発揮するものだ。大迷宮第三層にあたるそこは完全な静寂に満たされていた。 無音はそのままに空気だけが揺らいだ。溶岩を思わせる床に…

 10:47

自動ドアを通った笠置町葵(かさぎまち あおい)を雨の匂いが迎え出た。おっと、と思う。朝には振り出しそうだった雨、念のためにリュックに折り畳み傘を入れてよかった。自分は。自分を待っている男は――いた。かなり大きな折り畳み傘をさしてぼんやりと車の…

昨日は夕方からずっと雨でどうなることかと思ったけれど、今日はいい天気! こんなことなら黒田さんたちとご来迎を拝みに行けばよかった。それでも木賃宿の屋上から眺める朝もやの京都市街は非常にきれいだった。洗濯物も乾きそうだし。 本日もまた示威部隊…

 22:34

ふううううううと息を吐く声が聞こえる。なんとなしに妻のその声を耳に留めながら、笠置町隆盛(かさぎまち たかもり)は目の前の男のコップに焼酎を注いだ。彼は奥島幸一(おくしま こういち)という名で、笠置町夫婦と同じく政府から月10万円の助成金とと…

今年も残すところあと三日。日記をつけ始めたのが11月1日だったから、もう二ヶ月も続いたことになる。最初の頃にあった「明日死ぬかもしれない」という切迫感はいまはもうない。別に死なないと思っているのでもなく、死んだら死んだで仕方のないことだと受け…

京都の冬は厳しいというけれど、まだそれほどは実感していなかった。理由はいくつかあると思う。去年の寒さなんてそれほど意識していないというのが一つ、明らかに東京にいた頃より筋肉の量が増えたので気温に左右されにくくなったというのが一つ、そしてな…

 18:20

朝会の列で最後尾を譲ったことがなかった。小学校に入学した時点で143センチ、中学校入学時には176センチ、中学生活で192センチまで伸び、あとは大学までかけて現在の203センチになりそこで止まった(正直ほっとした)。そんな珍しい人生を過ごしていた津差…

気分が悪い。 原因はわかっている。津差さんの部隊の新しい治療術師、幌村幸(ほろむら みゆき)くんと話したからだ。彼は俺より一つ年上、一浪して東大だそうだ。努力の結晶と安泰な将来の可能性を蹴って迷宮街に来た彼はそういった経歴を隠すでもなく誇る…

第三層への初挑戦は無事に終了した。第三層では最強の怪物である緑龍に対しても無傷で勝利した。本当に強いなうちの部隊というか笠置町葵は。他の五人が束になっても彼女一人にかなわない自信がある。 それでも強い化け物の代名詞とされている緑龍を幸運とは…

 15:23

ツナギの素材や厚さには職業と体力に応じて差はあったが、ブーツはみな同じものだった。スキーのブーツを皮製にしたと思えばいいだろうか。スネの半ばまで覆う牛皮には足の甲に二箇所、足首〜すねに二箇所の留め金があり調節/着脱ができる。かつては紐を使…

 12:12

緊張を解いたのは「しなの」が発車して10分は経った頃だった。それまでなんとなくあの男女の支配圏にいるような気がしていたのだ。雪が降っていた場所にいたというのに、手のひらにはびっしょりと汗。 もともと事業団から金を引き出そうとは思っていなかった…

 10:39

木曾の山はもう雪に包まれている。普段だったら都市部に出稼ぎ(各地の町道場へ稽古をつけに)行くべき時期だったが今年もそれはしないでよさそうだった。ささやかながら事業団理事の報酬もあるし、一年目のハウス栽培のイチゴは目が離せない。これが軌道に…

 10:31

探索者の戦士たちも第四層に降りるあたりになると、各人の個性や優劣が出はじめると彼らは言っている。いわく、星野幸樹(ほしの こうき)は突き技に長け、真城雪(ましろ ゆき)は鉄剣の重量と遠心力を利用する跳躍戦法のが巧みで、野村悠樹(のむら ゆうき…

 16:20

四時を過ぎると今日の探索を終えた連中が使用した武器防具が運び込まれてくる。現場のチーフである片岡宗一(かたおか そういち)にとっては一番あわただしい時間帯だった。ひとつずつの状態を見極め、誰なら任せられるかを考え、てきぱきと割り振っていく。…

 14:25

今年から開始したハウス栽培の苺はどうにか売り物になってくれそうだった。これで来期にはもっと作付けを増やせるだろう。 竹で編んだ籠に農具をつめ、満足しつつ家に戻った笠置町隆盛(かさぎまち たかもり)を見知った顔が出迎えた。おお、と笑顔を浮かべ…

 13:25

この二日間で屈辱とともに思い知ったのは、人間はついに追いかけっこでネコに勝てないという事実だった。だから、久米錬心(くめ れんしん)からの電話で迷宮街の南外周部にたどりつき、ベンチに座り本を読む神田絵美(かんだ えみ)とその隣りでおとなしく…

 14:35

目がくらむ。 高田まり子は迷宮街に初めてやってきた頃を思い返していた。京都市街に発生した大迷宮に関する探索/防衛の一切を委任する組織として迷宮探索事業団が設立されたとき、彼女は特筆すべき点もないOLとして日々を暮らしていた。実直で落ち着ける恋…

収入は増えているのに支出も増えている・・・まあ、貯めこんでも墓場までは持っていけない(冗談抜きで)ので、必要な分は出し惜しみせず使うとしよう。日本経済にも貢献しないとな。実際のところ祇園では売上が上がっているらしい。 今日は目新しい訓練をは…

まず結論を述べれば今日も翠にはかすることさえもできなかった。それでもかなり目が慣れてきたと思う。昨日と同じく俺と津差さんは交代、彼女は動きづめだったが、昨日は軽々こなしていた彼女が何度か休憩をはさんでいたのだから。訓練場に隣接しているコン…

打撃力★★★★★ 防御力★★★★☆ 動作速度★★★★★ 入力への反射速度★★★★★★ 体力★★★★★★★ 気力★★★★☆ 投げ技 足払い(間合い短い) 両手を背中で縛っているため技は蹴りあるいは足払いのみ ゲージが満タンになると戒めを引きちぎり反則負けになってしまう 衣装 野良着/…