神野由加里

 19:20

車両前方の自動ドアが閉まり、笠置町翠(かさぎまち みどり)は息を吐き出した。 かなりきついことを言ってしまったのだろうか。少なくとも「大きなお世話」に属することを言ったという自覚があった。実際は自分の中に昨日からある後悔をぶつけてしまっただ…

 19:17

「座れたー!」 早速にかばんの中から紙袋を取り出した。中にはお土産に持たされたクッキーが入っている。 「みんないい人だった! 重ね重ねお礼を言っておいてね!」 笠置町翠(かさぎまち みどり)は、隣りに座った真壁啓一(まかべ けいいち)に笑いかけ…

 16:22

「いま言われていきなり人数が集まるわけねえだろ阿呆! 俺らは卒論書いてんだよ!」 二木克巳(にき かつみ)は携帯電話の向こうを罵倒した。流れてくる声は大学のゼミの親友でなにを好き好んだか卒業直前にして退学した男のものだ。久しぶりに東京に戻って…

 23:22

コーヒーカップを口に運んでそのぬるさに驚いた。このコーヒーを淹れたのは……一時間半も前になる。いつも見ているホームページを読んで、とにかく落ち着こうと身体が自然と淹れたのだ。フィルタに注ぐお湯加減も最適、きちんと後片付けもした。落ち着けてい…