天気は良く、めぐり合わせが悪い一日。
訓練場で青柳さんをドライブに誘ったら、午後からお経を上げにいくとか。お坊さんの世界でも常連客がいて、名指しで指名されると断れないのだそうだ。翠でも来ないかなとぼんやり待っていると、姉妹でおめかしで出かけていく姿をコンビニの帰り道に見かけた。
小林さんがなんとなくフレンドリーになっていたのでお話しようと道具屋に行ったけど今日はお休みだった。そこにちょうど鍛治師の島村さんが午前の納品に来ていたところだったので見学させてくださいよと頼んでようやく無聊から逃げられたという次第。そして彼らの作業場にお邪魔した。
すごい! の一語に尽きた。第二期の募集が始まり現在では350人程度の探索者がこの街にいる。単純に考えてそのうちの半分が戦士にあたるから、175人。三日に一回地下におりるから60本弱の鉄剣、そして全員分のツナギを日々ここで修繕しているのだ。鍛治師は現在30人ほどおり、さらに20人の増員が計画されているらしい。そこまで聞き出したところで島村さんを怒鳴る声が聞こえて「邪魔しないなら適当に見ていっていいよ」と放り出された。
作業場は三つに分かれている。新しい剣を製造するところと、痛んだ剣を直すところと、ツナギや篭手など布製品を扱うところだ。剣を扱うところではむっとした熱気と臭気にくらくらしてしまいそうになる。俺たちよりよっぽど戦士向けの肩の筋肉をした人たちが、真っ赤に焼けた鉄を叩き整えていた。それらの剣は初め水桶に、次いで流水にさらされて冷やされる。もうもうと蒸気があがる。そして二人の男性がせっせと研ぎをかけていた。
耳がキーンとしたまま比較的すごしやすいツナギの作業場に進む。ここでは巨大なミシンを使って五人の男性が補修をしているみたいだった。彼らが使うミシンは、大正時代のドラマにあるような足踏み式のもの。なんで電動を使わないんですか? と訊いたらこっちの方が微妙な操作ができる上に強いんだと応えてくれた。
数十分いただけで喉がからからになって退散した。面白かったな。うん。ものを作る現場って面白い。東京にいたころ、お酒の工場の見学に行こうぜとよく提案していた木村さんに、酒は買って飲めこのアル中と切り返していたけれど、考えてみればもったいなかったかもしれない。確かJRの山崎駅にはサントリーの工場があったはず。時間を見つけて行ってみよう。
その後も今泉くんのスケッチを見物しようとしたら「ごめんなさいこれから学校なので」と言われ、北酒場笠置町姉妹と見知らぬ男女が食事していたので寄っていったら葵に手と視線で追い払われ、由加里に電話したら一一時半過ぎまでずっと電話中だったのであきらめた。まあこういう日もあるか。