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それを疑ったことはなかった。狩人としての自分の能力、狩組の指揮官の常識(さきほど死んだ。ざまを見ろ!)、稼ぎを待っている妻たちの貞節、現在臨時に同盟を組んでいる隣りの村落の行動、いまこの瞬間でもこれだけ疑う対象があったが、これだけは疑ったことはなかった。すなわち自分がどういう存在なのかということを。自分はカスルでアザクだ。両親譲りの頑強な肉体をもって狩猟階級となるように育てられ、立派な戦士たちを生ませるために三人までの妻を持つことを許された特権階級。そういうアイデンティティだけは疑ったことはなかった。なかったのだ。しかし。
自分は何か別のものなのではないか? という疑問が一瞬前から心に芽生えていた。自分は実は――信じられないことだが――『神』だったのではないか? と。
アザクにだけ与えられる甲冑を窮屈に感じられる。それはそうだ。自分は『神』なのだからこんなちっぽけなものに縛られているような存在ではない。からりと剣が床に落ちた。その手を見ると、正に目の前で篭手が内側から裂けた。そして、これまでとは違う腕が現れた。青い二の腕は太い筋肉が束になっており、そこにはこれまであった体毛が見られず表面はなんだかひび割れている。指は四本しかなかったはずなのに、七本ある。アザクの手ではない。これは『神』の手だ。眠りに入る前に、聖火を囲んで祈祷師が話してくれる伝説の存在。そして『神』は自分だったのだ。
視界が高い。隣りのアザク――見覚えがある気がするが、名前は思いだせない。一瞬だけその名前を失ったことを悲しんだが、その喪失感もまたすぐに失われ一つの衝動がその心を支配した。
ひれ伏しているこの生き物たちを殺そう。