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キーボードの下ボタンを押して表示された文章に眉をひそめた。そして、脇のベッドで横になりながらスナック菓子を食べている妹、笠置町葵(かさぎまち あおい)を振り返る。
「ねえ葵。明日ヒマ?」
「んー、駅前に出ようかと思ってたけど、なんで?」
「小寺さんの」
ぴくりと妹の肩が震える。やっぱり、と翠は心中でため息をついた。小寺雄一は同じく初日にこの迷宮街にやってきた男で、罠解除師として昨日初陣に挑みそして死んだ。小寺は当初自分たちと部隊を組む予定であり、それを断ったのが妹だった。妹としては自分がわがままを言わなければ死なせずにすんだと思ってもおかしくない。実際に昨夜は手がつけられないくらい酔っていたらしいし(一緒にいた津差という男は何も教えてくれなかった)、こうやって大量の菓子を食べるのは落ち込んだときの特徴だ。
「――遺体を回収するために津差さんと真壁さんと、恩田さんが明日潜るみたい」
跳ね起きてテーブルまで飛んできた妹に翠はノートパソコンを向けてやった。
ここは迷宮街の一角にあるアパートの一室だった。もともとは迷宮街で労働に従事する人たちのための施設だが、探索者も希望すれば格安でアパートを借りることができる。部屋構成にワンルームはなく探索者からの人気は不評だったが双子の姉妹にはうってつけなので来場二日目にここを借りた。
「なに? このホームページ」
「真壁さんの日記。このあいだパソコンのところで酔いつぶれていた時にメモしといたの。ちなみにこれが私の書いた文章」
「マメだね、真壁さん・・・ほんとだ。でも三人で潜るつもりかな」
画面を覗き込む目は真剣そのものだった。
「三人で全滅されても困るし、葵もついていってあげなよ」
「――うん、そうする」