小寺の遺体回収が無事に終わってほっとしている。階段を下りて30メートル、しかも大事をとって他部隊の直後に降りたのがよかったのか、遺体を回収し、戻るまで化け物に出会うことはなかった。遺体は通路の脇に寄せられて、荷物や死体を隠すためのビニールシートで覆われていた。だから致命傷となった後頭部陥没以外の外傷はない、家族にまだ見せられるものだった。ここは地底のため気温が低いから冷蔵庫に保管するような効果があるのだ。道具屋で売られている遺体袋と折りたたみの担架で地上まで運んび安置所に届けた。安置所では低温保管から死化粧、火葬まですべて行っている。そのころになると、どこから聞きつけてきたか、顔見知りの奴らがちらほらとやってきては固い顔で小寺に手を合わせていた。
葵と――誰から聞いたのやら、彼女は今朝俺たちの前に来て同行を申し出てくれた――津差さんの会話が印象的だった。
「小寺さんは満足してくれるかな」とぽつりと葵が呟いたのは、死化粧をほどこされ陥没した頭蓋を戻され、綺麗になった顔を四人で見下ろしていた時だ。恩田さんと俺は黙っていた。なんて答えていいのかわからなかったから。
「小寺がどう考えるかわからないけど、俺だったら幸せに感じると思う」
そしてぐるりと俺たちを見回した。
「俺の骨を拾ってくれる奴がここに三人はいるんだから」
俺はうなずいた。俺にはそれだけしかない。あれから織田さんは視線をあわせようとしない。


明日また潜る。