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くらくら痛む頭を落ち着けようと水を口に含む。明らかに飲みすぎたのは、やっぱり仲間と別れるのがさびしいからだ。いろんなことを話して、いろんなことを聞いてもらった相手だ。命を助けて助けられた濃い付き合いをした相手だ。一年しか年上じゃなかったけれど尊敬していた。思わず泣きそうになって、でも自分だけ泣くのはいやだからがんばって飲んだ。その結果がこれだ。ああ、気持ち悪い。
電子音が聞こえ、めずらしいなと思った。姉も携帯を持ってはいたがこの狭い街ではそれほど電話やメールのやり取りはされない。ちょっと歩けばたいがい見つかる距離にいるからだ。それもこんな朝っぱらから――と壁掛け時計を見た。まだ九時だ。もう一眠りしようかな。
誰からのメールだろう? ふっと浮かんだのはある男の顔だ。昨日、別れを惜しんで自分が泣きたくなった顔。あれが、最後の最後の大逆転で姉にラブコールを――なんてことはないな。もう完全に脈はない。一時はいいかなと思ったんだけど。
そう、特に従兄への片思いを断ち切らせようとして企んでからの脈のなさっぷりはすごかった。お前そこまで素っ気無いと、女としての自信もへし折れるんじゃないのかと心配になるくらい。不自然に思えるくらい。
「真壁さんも無理してたのかな」
呟く。きっとそうなんだろうな。
しかしもう終わったことだ。彼は東京で再び恋人の腕の中に戻る。もう姉のことなど思い出すことはないだろう。人間はそばにいる人を愛するようになると昔のひとは言っている。そういうことだ。
さあ、いなくなる人間のことは忘れよう。もう一眠りしよう。鼻をすんとすすりあげる。