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もういちど隊員を召集したのはもちろん緑川浩一郎(みどりかわ こういちろう)の報告に不安を感じたからだ。とはいえ部隊のリーダーとして仲間の心配をしたわけではない。大量に投入される一般人作業員の護衛として地下に潜る部下たちの心配だった。くつろいでいる中集められた明日の地下警備の面々を見渡した。そして簡潔に質問をした。明日は俺たち自衛隊員と探索者と作業者が入る。守るべき人間はそのうちのどれだ?
怪訝として見交わされる視線。一人の若い士官が代表して探索者と作業者ですと答えた。あー、やっぱりなと思う。
「それは考えを改めろ。俺たちの任務はこの三日間、地下で作業者の死者を一人も出さないことだ。探索者は何人死んでもいい。化け物を殺す上で探索者も撃ち殺した方が効率がいいようなら躊躇せず引き金を引け」
し、しかしと若い士官は口篭もった。彼らだって日本国民で納税者です。その言葉には単にそれがどうかしたか? とだけ言い捨てた。沈黙が訪れる。
「あいつらの命を言い訳にしてためらうな。あいつらは望んでここに来たんだ」
そうじゃないとお前らがあぶない、と心中で付け加えた。日々危険に挑んでいる探索者はほうっておいても自分で生き残る。しかし指揮があっての行動に慣れきっている彼らの死への不安はどうしてもぬぐえない。確かに上官から受けている命令は「地下での作業員の死者を一人も出さないこと」だ。自衛隊員と探索者が何人死のうがかまわないと考えている。しかし、自分が心に課したものはまた別だ。こいつらを一人だって死なせたくない。