熊谷繁実

今日は八時起き! もう本格的な探索はないのだと身体が知ったからなのか、モルグで六時に出て行く探索者たちの目覚ましや準備の音にもまったく邪魔されず眠っていられた。身体の方もきちんと早起きして動かないと命に関わると知っていたのだ。だから命の危険…

 08:12

店頭からはアルバイトとともに検品をしている妻の声が聞こえてくる。二十日は各種雑誌の入荷日なので検品作業も書籍並べのアルバイトだけでなくレジの女性にも入ってもらっているくらいだから、自分もすぐに行かなければならないのはわかっていた。しかし視…

 23:31

帳簿とレジのお金があわない。熊谷繁美(くまがい しげみ)が必死に記憶をたどっていたものの、妻の声にそれを中断された。ちょっと来てー! ネズミが出たときのようなその声に驚いて居間のふすまを開けた。そこには両親と去年入籍した妻の桂(旧姓は小林)…

街全体が静かな一日だった。午後から今年の初雪が降り始めたから、というのもあるだろうけど小林さんの送別会(さすがに道具屋に勤めていただけのことはあって、送別会に出くわした人たちがみんな立ち寄っては彼女と乾杯していた)が昨日大変な騒ぎだったか…

 10:06

どんよりと曇る空。身を切る寒さこそないものの、吐く息はすっかり白かった。湿った風が絶え間なく吹き付けてくるこんな日にはさすがに部屋で暖かくしているだろう、となかば予想していたので、セーターの上に外套を巻きつけてイーゼルの前に腰掛けている姿…

 15:15

「うわー!」 黒い毛並みがびくりと震えた。その犬は怯えたように目の前の女性を見上げる。見知らぬ来客に精一杯振っていた尾が、ぱた、ぱた、と控えめな動きになっている。うるさいよ雪、怖がらすな! と神田絵美(かんだ えみ)は部隊のリーダーである女戦…

 12:45

迷宮街では日常生活にかかわることの大半が一般企業にゆだねられているが、簡単に参入できるというわけではなかった。スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどはある。しかし衣服や本、一般的ではない食材、娯楽の類は街の中に立ち入ることは許されな…

どんよりとした曇りの一日。津差さんと訓練をして過ごした。津差さんたちは本当は今日もぐるつもりだったのだけど、彼らの治療術師の的場さんという方が体調不良になってしまったということだった。神崎さんの死にショックを受けていたのだという。真城さん…