どんよりとした曇りの一日。津差さんと訓練をして過ごした。津差さんたちは本当は今日もぐるつもりだったのだけど、彼らの治療術師の的場さんという方が体調不良になってしまったということだった。神崎さんの死にショックを受けていたのだという。真城さんがあんまりさっぱりしていたから驚いたけど、落ち込む人はやっぱりいるんだな。ちょっと安心した。だからって、自分が落ち込んでいないことの言い訳にはならないけど。
津差さんも神崎さんを殺せるような敵が第二層にいることを気にしていた。不意打ちされていきなり畳み込まれたのならともかく、神崎さんを失っても一度残りのメンバーで撃退し、地上に助けを求める電話をかけている。消耗戦になればあの部隊で最後まで残るのは神崎さんだろうから、つまり彼はほぼ一発で殺されたのだ。しかし、そんな剣呑な存在はどうしても思いつかなかった。昼前にやってきた翠と越谷さんを加えて相談したところ、二人はいなばというウサギの化け物じゃないかと言っていた。一撃で致命傷を与えられる化け物はほかに想像できないし、いなばと神崎さんはタイプ的には最悪の相性なのだそうだ。いなばは確かに動きがすばやいけど、そして神崎さんから教わった動作を読む方法が通じないけど――そうか、そういうことか。神崎さんは俺や翠、津差さんに比べたら動きが遅い。その大部分を相手の動きを読むことでカバーしていた。そういうことか。
得心がいったので訓練は切り上げてモルグへ戻る最中に道具屋の小林さんを見つけた。迷宮街では見かけたことのない男性と一緒にいた。なんだか小林さんは困って、泣いているみたいだった。みんないろいろありますな。