徳永セリム

 06:13

遠ざかる背中に何も言えずに見送ってから、殴られた頬に手を当てた。痛みはなかったが、それ以上に罪悪感が心を蝕んでいた。 「いやあ、珍しいもの見せてもらったよ」 真壁啓一(まかべ けいいち)はぎょっとして周囲を眺め渡した。誰もいない。視線を下げる…

 23:52

この匂いは――セリムはぱちりと目を開いて家から飛び出した。いつも遊んでくれる人間だ。ブラシをかけてくれて、家を掃除してくれて、たまには散歩に連れて行ってくれる。食事を与えてくれるご主人様と同じくらい大好きな人間だった。 「セリムー。元気?」 …

今日の女帝。 「まさかこんな下賎なところに住まうハメになるとは思わなかったわ」(わずかな着替えだけ持って木賃宿を見上げたセリフ) 今日は探索の日。とても危ない局面があった。何度目かの戦闘で死体食いといわれる小柄な生き物(骸骨やなにかと同じく…

 15:15

「うわー!」 黒い毛並みがびくりと震えた。その犬は怯えたように目の前の女性を見上げる。見知らぬ来客に精一杯振っていた尾が、ぱた、ぱた、と控えめな動きになっている。うるさいよ雪、怖がらすな! と神田絵美(かんだ えみ)は部隊のリーダーである女戦…