訓練場

 08:02

離れた床で柔軟をしていると、視界に見なれたブーツが入った。顔を挙げると仲間の女戦士である笠置町翠(かさぎまち みどり)が見下ろしている。当然のようにツナギに身を包んでやる気十分だった。 「真壁さん、聞いた? 賞品がつくって」 「へええ。どんな…

 07:12

ゆっくりと上げた脚、かかとが天に向いた。片足は大地に、片足は天にと伸ばされた黒田聡(くろだ さとし)の身体はまるで一本の棒のようにも見える。精鋭四部隊の中では『地下限定で』最強の戦士と呼ばれていた黒田だったが実際の身体能力は垂直に上げた脚が…

 09:23

前に打ち合ったのはたしか先週の半ばだったはずだと思い当たり、進藤典範(しんどう のりひろ)の背中に冷たいものが走った。その時にもとてもかなう気がしなかった巨人は、今はもうなんだか別のひどく遠いものになってしまったような気がする。訓練用の木剣…

 10:25

左右からほぼ同時に斬りこみが送られてくる。真城雪(ましろ ゆき)はふーん、と感心しながらも余裕を持って両方とも弾き飛ばした。そして軽い前蹴りをみぞおちに叩き込む。うずくまって下がった頭を左手の裏拳で払い、がらあきになった首筋にそっと切っ先を…

 11:25

敵は手加減してくれないのにどうして教官が手加減しなければならん? 父親の口癖だった。だからその教えを叩き込まれた鈴木秀美(すずき ひでみ)もまた、訓練場では一切の手加減をするつもりはなかったし、戦乱の世の中でもなし、他に職はいくらでもあるこ…

 09:02

ずらりと試験生が並んでいる。橋本辰(はしもと たつ)はごきりと首を鳴らした。『人類の剣』でありこの国でも十本指に入るだろう戦士であっても長時間の運転はこたえた。昨夜はぎりぎりまで名古屋にいて、妻と子がすうすう寝息をたてる中、ガムをかみながら…

 17:57

斬撃のたびにあげられる気合の声も甲高く感じられる。進藤典範(しんどう のりひろ)は少し苛立って木剣を弾いた。軽くないだつもりだったが、最近自分の筋肉は予想以上に大きな力を出すようになっている。相手の木剣が手から離れ転がった。海老沼洋子(えび…

 12:25

鹿島詩穂(かしま しほ)はキーボードを叩く手を止めた。画面にはたくさんの名前の羅列がある。来場試験にパスした探索者全員の、魔法使いの素養を判断した記録だった。昨日は合格者ゼロ。残念だが、体力テストにパスする人間が日に10人程度なのだから珍しい…