野村悠樹

 07:12

ゆっくりと上げた脚、かかとが天に向いた。片足は大地に、片足は天にと伸ばされた黒田聡(くろだ さとし)の身体はまるで一本の棒のようにも見える。精鋭四部隊の中では『地下限定で』最強の戦士と呼ばれていた黒田だったが実際の身体能力は垂直に上げた脚が…

 09:23

前に打ち合ったのはたしか先週の半ばだったはずだと思い当たり、進藤典範(しんどう のりひろ)の背中に冷たいものが走った。その時にもとてもかなう気がしなかった巨人は、今はもうなんだか別のひどく遠いものになってしまったような気がする。訓練用の木剣…

 10:31

探索者の戦士たちも第四層に降りるあたりになると、各人の個性や優劣が出はじめると彼らは言っている。いわく、星野幸樹(ほしの こうき)は突き技に長け、真城雪(ましろ ゆき)は鉄剣の重量と遠心力を利用する跳躍戦法のが巧みで、野村悠樹(のむら ゆうき…

打撃力★★★☆☆ 防御力★★★★☆ 動作速度★★★★☆ 入力への反射速度★★★★☆ 体力★★★★☆ 気力★★☆☆☆ 投げ技 合気道系 目当て 上段への小パンチで相手の画面が二秒暗くなる 素手でのダメージペナルティなし

苦笑とともにもらした呟きは同席している人間に意外に感じられたらしい。双子の妹である笠置町葵(かさぎまち あおい)が代表して問いかけてきた。 「国村さんがちゃっかりしてるって・・・どういうこと?」 笠置町翠(かさぎまち みどり)はその言葉に妹の…

うわ、ヒゲ。開けた視界に映っていた星野幸樹(ほしの こうき)の顔を見て葛西紀彦(かさい のりひこ)がまず呟いたのはその一言だった。星野をはじめ周囲を取り囲んで心配していた視線たちがほっとしたように和んだ。 負けましたねー、とからっと笑って葛西…

「ああもう! とんでもねえな黒田さんは!」 段差に腰掛け膝に額をつけていた男が突然叫んだ言葉はそれだった。鯉沼今日子(こいぬま きょうこ)はびっくりして葛西紀彦(かさい のりひこ)を見やる。近くにいた人間が多かれ少なかれ驚いた顔をしている中、…

準決勝を前にしても身を包む空気には変化が見られない。ゆったりとしたそれは黒田聡(くろだ さとし)が後衛から好かれる大きな要因ではあったけれど、それでもその空気のまま訪れられた面々はうろたえたようだった。同じく準決勝を目前にして、客席の段差に…

「こりゃ離婚だな、鯉沼くん。まさか鴨川会長を知らない嫁だなんて」 野村悠樹(のむら ゆうき)の言葉にまったくだと葛西紀彦(かさい のりひこ)がうなずく。いやいや、と鯉沼昭夫(こいぬま あきお)は慈愛のこもった目で妻を見つめた。知らなかったのは…

とことこ歩調を乱したものはもはや怒号とも呼べるサイズの音の塊であり、そして爆発的な大歓声だった。何事だよ、と鯉沼今日子(こいぬま きょうこ)は小走りに進む。ベスト8決定戦からは統一された会場、最前列から二段目に自分の席は確保されていた。そこ…

試合場の一角に秋谷佳宗(あきたに よしむね)が姿を現した途端に女性の歓声が沸きあがった。それはどうも「ヨシムネ先生」と呼びかけているように聞こえ、笠置町翠(かさぎまち みどり)は疑問に思う。先刻から自分たちの一段下に座っている二人のうち、試…

息子の部屋にあるどんな格闘漫画でもサウスポー相手は苦しむものだったが、訓練場でしばしば打ち合っていた葛西紀彦(かさい のりひこ)にはそのハンディはないようだった。裂帛の気合を篭めた切込みが矢継ぎ早に繰り出され、どちらかといえば押されているの…

静止した状態から2m弱の跳躍、そして屹立。全身に気をみなぎらせてこちらを見つめてくる葛西紀彦(かさい のりひこ)の視線に対し、お前は真城雪(ましろ ゆき)か何かか? と胸の内で毒づいた。そして慌てて平常心を自分に言い聞かせる。野村悠樹(のむら …

おおっ! と部隊のリーダーである星野幸樹(ほしの こうき)の驚きの声が聞こえてきた。午後の大会も始まり、ベスト8を決めるここからは一つの会場だけを使用して試合を行う。自衛隊/探索者合同作業は慣れたもののこの街だったがそれでも記録的な効率で土…