2003-10-11から1日間の記事一覧

ビニール袋がうるさく鳴る音は、めったに人の通らない深夜では目立った。どれだけ腕っぷしに自信がありこの街の人間を信頼していたとしても、結局は女である。一人で闇を歩くのは怖い。鋭敏な聴覚を手元のポリエステルが邪魔している今はなおさらだった。送…

[怪物情報]⇒[日付順に並べる]とクリックする。ずらっと並んだタイトルを眺めたが、一番上にある書き込みは昨日、20日のものだった。明日からのゴンドラ設置作業に備えて第三層以下にもぐる部隊はほとんどが休んでいるはずだ。まあそれは当然か、と津差龍一郎…

隣りに座ってきた男に向けて、屈託のない笑顔がすんなり出てくる自分に葛西紀彦(かさい のりひこ)は驚いていた。別に嫌っていたというわけではない。もともとそれほど近しくする関係でもなくなんとなしのよそよそしさがあっただけだ。自分自身に対して社交…

言葉をかき消したものは、常日頃喧騒に満ちたこの場所であっても珍しいものだった。拍手と喝采である。その意外さに思わず中村嘉穂(なかむら かほ)は振り向いた。見ると、一角でよく見かける女探索者がなにやら声を張り上げている。名前だろうか? 誰かを…

「ええ? いいよ別に」 従兄の断りの言葉を笠置町葵(かさぎまち あおい)は意外に思った。双子の姉の笠置町翠(かさぎまち みどり)があげようとしたのはたかが遊園地のフリーパス券であり、2枚で1万円だとかそこらのものだったはずだ。それは数日前に従兄…

苦笑とともにもらした呟きは同席している人間に意外に感じられたらしい。双子の妹である笠置町葵(かさぎまち あおい)が代表して問いかけてきた。 「国村さんがちゃっかりしてるって・・・どういうこと?」 笠置町翠(かさぎまち みどり)はその言葉に妹の…

探索者に対する批判でもっともふさわしくないものは吝嗇だったが金銭に無頓着であるわけでは決してない。明日をも知れぬ身であるから金には恬淡としており、高額の出費を担うことも高額の収入を求めることもごく自然に身についた態度だった。屠った生き物の…

小さなガッツポーズを見て意外を感じた。佐藤良輔(さとう りょうすけ)の目の前で同じ賞品である遊園地のチケットを受け取る娘は、その仲間の日記を読む限り恋人はいないと思っていたからだ。それでもペアチケットを喜ぶからには誰か一緒に行く相手がいるの…

常に明確に未来の筋書きを予想する。 その筋書きをもとに最適な自分の行動を計画する。 実際の事態の推移はもちろん予想通りにはいかないから、どのようになぜ異なったのかを確認する。 これは大なり小なり社会人の大半が意識していることだったが、その度合…

ジョッキがぶつかる音は常よりも大きく思えたが、常盤浩介(ときわ こうすけ)の心のうちには納得している部分もある。四角いテーブルの一角を占めた四人は四人とも目の前で激戦をたっぷりと見せつけられたのだから。うち二人、青柳誠真(あおやぎ せいしん…