常盤浩介

 15:23

ツナギの素材や厚さには職業と体力に応じて差はあったが、ブーツはみな同じものだった。スキーのブーツを皮製にしたと思えばいいだろうか。スネの半ばまで覆う牛皮には足の甲に二箇所、足首〜すねに二箇所の留め金があり調節/着脱ができる。かつては紐を使…

今日が第二層最後の日。バンドマン二人が決心して次回からは第三層に潜ることにする。今回は第二層で数回戦闘してある程度の収入を確保してからエディの訓練場に向かった。俺たち前衛の訓練ではなく、後衛の三人が少しでもスピードに慣れるのが目的だった。…

迷宮街だけではなく地下までもクリスマスに突入。 何かというと、葵のツナギが「クリスマスバージョン」になっていた。ベースを赤に、フードのふち、袖、足首、ウェストラインが白いというもの。書き忘れていたけどツナギの色は基本料金で各人自由に選べる。…

 19:22

お目当ての若いバーテンは東京に行っているという。少し残念に思いながら、強めのスコッチをダブルで頼んだ。もともと団体で騒ぐことが性に合わない津差龍一郎(つさ りゅういちろう)は、最近はもっぱらバーカウンターで一人で飲むことを好んでいた。 「お…

寒い寒い! 今日は雲ひとつないいい天気だったのに、その晴天も「風に雲がふきとばされたから?」と思えてしまうくらいに寒い一日だった。モルグで寝起きしていると、大概六時ごろに目覚ましでいったん起こされる。大半の探索者は感覚が鋭敏だし、その時間に…

第二層で地図ができている個所をすべて歩き終わった。曲がりくねった洞窟だから正確な大きさはわからないけど、歩いている時間だけで五時間はあったと思う。体感的に時速四キロくらいの速度で進んでいるから、ゴツゴツした洞窟内を警戒しながら二〇キロは歩…

訓練は西野さんと午後からにした。当然午前中は起きられなかったのだ。 西野さんとは初対戦になる。その背筋のなせる技なのだろうか、たいへん太刀行きが速い人だった。ただ、まだ実戦は三度目ということで頭で作戦を組み立てられていないのがわかる。それで…

迷宮探索も第二層にさしかかり、今回で二度目になる。この階層の何よりの特徴といえば毒気を吹き付けてくる化け物が現れたことだろう。活性剤は、使い捨ての注射器とセットで一本8,000円もするけれど前衛は一人につき二本、後衛は運動しないからより持ち運び…

 22:37

コンビニを出たところで見知った顔が歩いて来るのを見かけた。同じ部隊の魔法使いである笠置町葵(かさぎまち あおい)だった。朱が差した頬を見るところ、アルコールが入っているようだった。 「ああ、常盤くん」 こんばんわ、とあいさつをしてから訊ねたら…

本日の探索、無事に終了。数日まったく訓練していなかったブランクどころか思ったよりずっといい動きができた。運動をせずに休んだのが良かったのかもしれない。あと、昨日神崎さんの話を聞いておいてよかった。地下で出会うものは俺たちのどんな図鑑にも載…

 13:20

「おう浩介、俺は決まったよ。明日潜る」 児島貴(こじま たかし)は、前方から歩いてくる常盤浩介(ときわ こうすけ)に声をかけた。常盤は、俺はだめみたいです、と肩をすくめた。そのまま連れ立って北酒場に向かう。 ドリンクバーのキーカードを買った。2…

二度目の迷宮探索も無事終了した。敵は青鬼(コボルド)五匹の集団と、赤鬼(オーク)三匹の集団、そして骸骨(アンデッドコボルド)五匹の集団だった。 まずはセオリー通りに入り口右手の部屋に入った。いちど合言葉で開けてみたくて言わせてくれと頼んだら…

明日はいよいよ初陣だ。これが最後の日記になるかもしれない。もちろんそんなつもりはないけれど。 今日は午前中に道具屋で装備品を受け取り、午後から集団戦闘の訓練をした。二対一で片方が動きを止めて片方が打ち込むとか、アイコンタクトで前衛が後衛をか…

 15:22

「ごー!」 明るい青色をした厚ぼったいツナギを身に付け、フードをしっかりとかぶった女性が叫んだ。フードの陰から真剣な瞳が前方を見つめている。視線の先は15メートルほど離れた一角。そこには三人の人影があった。二人が木製の直刀、一人が木刀を持って…

頭が痛い。本日は戦闘の訓練はお休みだった。午前中は探索の基礎的なシステム説明会に出席し、夕方からは仲間たち(笠置町姉妹が探してくれた)との顔合わせの飲み会だった。両方とも大事なことだからいきおい日記は長くなってしまうのだけど、この頭で書き…

ジョッキがぶつかる音は常よりも大きく思えたが、常盤浩介(ときわ こうすけ)の心のうちには納得している部分もある。四角いテーブルの一角を占めた四人は四人とも目の前で激戦をたっぷりと見せつけられたのだから。うち二人、青柳誠真(あおやぎ せいしん…

「神足さんってテレビの撮影のときにお話しただけだけど、なんというか」 そこまで口に出してから笠置町葵(かさぎまち あおい)は残りの言葉を飲み込んだ。積まれた土嚢、一つ下の壇に据わっている若林暁(わかばやし さとる)が半身で振り返り口元に笑顔を…

「はーいお弁当ですよー」 広げたレジャーシートは赤と黄色と緑と青、遠足でよくある使われるものだ。その上に正座した笠置町葵(かさぎまち あおい)は三段のお重を次々に開けた。中には小ぶりなおにぎりが詰め込まれており、おお、と車座から喜びの声があ…