津差龍一郎

訓練は西野さんと午後からにした。当然午前中は起きられなかったのだ。 西野さんとは初対戦になる。その背筋のなせる技なのだろうか、たいへん太刀行きが速い人だった。ただ、まだ実戦は三度目ということで頭で作戦を組み立てられていないのがわかる。それで…

 20:13

探索者と仲良くするといいことがないと、織田彩(おりた あや)は過去の体験で知っている。人間はいつか死ぬもので、死んだらそれまでの付き合いの分だけ悲しくなってしまうもので、そして探索者は恐ろしく死亡率の高い職業だったからそれも当然のことだった…

収入は増えているのに支出も増えている・・・まあ、貯めこんでも墓場までは持っていけない(冗談抜きで)ので、必要な分は出し惜しみせず使うとしよう。日本経済にも貢献しないとな。実際のところ祇園では売上が上がっているらしい。 今日は目新しい訓練をは…

後頭部には大きなたんこぶ。触るとまだ痛かった。明日になれば、児島さんがもう一度治療してくれるらしいのでそれまでは我慢しないと。今日は横を向いて寝るようかな。 迷宮探索も三日目で、最初の頃よりはるかに度胸もついた。さらに、俺たちの魔法使いは他…

 15:52

迷宮街の中心はなんといっても中央を東西南北に走る大通りだ。二車線通りのそれは東西南北にそれぞれ三キロほどで中央で交差している。迷宮街の外からそこに入るのは西口しかなく、入るには身分証明書のチェックが、出るには荷物の検査が必要なのでそこでは…

昨日じっくりほぐした甲斐もあって筋肉痛はほぼ解消していた。 午前中は訓練場で青柳さんと打ち合う。津差さんは仲間の妹さんが迷宮街にきているらしく、京都観光に運転手として同行しているとのこと。せっかく京都に来ているのだから、俺も観光したほうがい…

小寺の遺体回収が無事に終わってほっとしている。階段を下りて30メートル、しかも大事をとって他部隊の直後に降りたのがよかったのか、遺体を回収し、戻るまで化け物に出会うことはなかった。遺体は通路の脇に寄せられて、荷物や死体を隠すためのビニールシ…

迷宮街の夜は早い。朝五時まで営業の居酒屋などやっていないから、夜遅くに目がさめてしまった俺は唯一のコンビニであるミニストップ迷宮街支店まで出かけていった。全国チェーンのコンビニにはいろいろ種類があるし、販売実績ではもっと上位のものもあった…

 22:10

一晩三千円を支払えばシャワー付の個室が借りられる。今日の収入は六千円と少しだから実際にはそんな余裕はないのだが、津差龍一郎(つさ りゅういちろう)は個室を借りることにした。今日が初陣で三度遭遇し、彼はハト派のパーティーを組んでいるので一度は…

頭が痛い。本日は戦闘の訓練はお休みだった。午前中は探索の基礎的なシステム説明会に出席し、夕方からは仲間たち(笠置町姉妹が探してくれた)との顔合わせの飲み会だった。両方とも大事なことだからいきおい日記は長くなってしまうのだけど、この頭で書き…

まず結論を述べれば今日も翠にはかすることさえもできなかった。それでもかなり目が慣れてきたと思う。昨日と同じく俺と津差さんは交代、彼女は動きづめだったが、昨日は軽々こなしていた彼女が何度か休憩をはさんでいたのだから。訓練場に隣接しているコン…

打ち身がひどく痛い。でも一番傷ついているのはプライドだった。今日は記念すべき日だ。一緒に迷宮探索をする仲間が二人できて、年下の女の子に叩きのめされたという。 今朝、迷宮探索者としてのパスが発行された。これを提示すれば北酒場の定食と、いま泊ま…

迷宮街に来て二日目。今日は属性と職業という二つのものを決めた。ここに来て初めて知った概念だった。 まず属性とは、迷宮内で遭遇する化け物との対応姿勢のことだという。もちろんこっちが侵略者でありかつ奴らにとっての食料である以上、お互いを発見した…

まさか自分が自発的に日記をつけることになるなんて夢にも思わなかった。それなのに敢えてしているのは日々を書き留めておかなければならないという強迫観念じみた意識が生まれたから。その動機はなんといっても、現在俺がいるこの状況が稀有なものであり日…

打撃力★★★★☆ 防御力★★★★☆ 動作速度★★☆☆☆ 入力への反射速度★★☆☆☆ 体力★★★★★ 気力★★★☆☆ 投げ技 なし 隆一君もしくは由真ちゃんを肩車している時は、相手が上段攻撃ができない 衣装 ツナギ(茶色)/クマの着ぐるみ

[怪物情報]⇒[日付順に並べる]とクリックする。ずらっと並んだタイトルを眺めたが、一番上にある書き込みは昨日、20日のものだった。明日からのゴンドラ設置作業に備えて第三層以下にもぐる部隊はほとんどが休んでいるはずだ。まあそれは当然か、と津差龍一郎…

光の中に突然うかびあがったひょっとこのお面にぎょっとした。凝視する中で白い手がそのお面をはずすと理事の娘で自分が下した女剣士の笑顔があった。そうか、この娘との勝負も大変だったと黒田聡(くろだ さとし)はしみじみと思う。手にしたお面をつけて登…

ヘルメットをかぶりなおした国村光(くにむら ひかる)の姿に再び『ネット』たちを緊張が包む。日々後衛を守っている彼らとはいえこの『ネット』役は疲れるものなのだ。それまで半分以上が座り込んでいたことでもそれは明らかだった。同じく背後を守るとはい…

はじめの声に腰をぐんと落とした。普段はやわらかい太ももが硬直し膨張するのが自分でもわかった。反応速度は今日いちばんだ、と自分の身体への満足感とともに国村光(くにむら ひかる)は視線を対戦相手に当てた。敵手である神足燎三(こうたり りょうぞう…

「さて解説の真壁さん、どうですかこの試合は」 笠置町翠(かさぎまち みどり)が巨体をはさんで一つ向こうに座る仲間に話し掛けた。真壁啓一(まかべ けいいち)は雰囲気たっぷりにそうですねえ、と答える。 「実力で考えれば大きな開きがありますが、佐藤…

迷宮街のスーパーにはいくつか他の店ではあまり売られていないものが並んでおり、しかもその回転率が早いことがある。そのうちのひとつに猫じゃらしの棒があった。子どもの頃ドイツで暮らしていたことのある探索者が「マルタみたい」と評したことのあるこの…

折った。津差龍一郎(つさ りゅういちろう)は確信した。 自分の鼻も折れているかもしれないが、と止まる気配も見せない鼻血を思い切り噴き出しながら懸命に笑いを押し殺す。逆流してきた血が口の中にたまり、それを床に吐き出した。その大量の出血に観客が…

この着想をどこから仕入れやがった? 葛西紀彦(かさい のりひこ)は振り下ろされる木剣を受け止めた。右手一本で振り下ろされた木剣はそれでも大変な威力を伝えてきて、受け止めるには片腕で柄、そして切っ先を肩や二の腕に当てなければならないほどだった…

視線は赤いリンゴに注がれている。それは自分の大きな手のひらと長くて太い指とで半ば以上隠されていた。手のひらも指も筋肉は緊張し膨れ上がり果物に伝える力の大きさを伝えていた。だから近寄ってきていた人間の感想は当然といえた。太田憲(おおた けん)…

浮き立った気分で会場に戻るとちょうど部隊の戦士である佐藤良輔(さとう りょうすけ)が直立で精神を集中しているところだった。驚かせてやろう、と右拳を握りしめてその背中に向けて繰り出すと、まるで漫画のようなタイミングで佐藤は屈伸をした。くすくす…

田中元康(たなか もとやす)はこの街に来てまだ二週間の戦士でしかない。実戦の経験も街での知名度も明らかに低いことはわかっていたがこのトーナメントに参加したのはやれると思ったからだ。相手を絶命させることを目的とする地下の戦闘ならばともかく、相…